熊本で飲食店や建設業を営んでいる方の中には、「うちの業種は税務調査が多いと聞くが、実際にはどこを見られるのか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。調査で確認される項目は業種によって傾向があり、あらかじめ知っておけば、日々の記録や書類の残し方で備えることができます。
この記事では、国税庁と熊本国税局が公表している最新の調査事績(令和6事務年度)をもとに、飲食業・建設業が統計の上でどう位置づけられているかを確認したうえで、それぞれの業種で調査の論点になりやすいポイントと、業種を問わず整えておきたい記録について、国税OBの税理士が整理します。
- 国税庁の統計では、法人税の「不正発見割合の高い業種」上位10のうち、飲食関係が4業種、建設関係が2業種を占めています
- 飲食店は、現金売上の記録、仕入との釣り合い、まかない(従業員の食事)の扱いが論点になりやすい業種です
- 建設業は、外注費と給与の区分、期末をまたぐ工事の売上と原価の計上時期が論点になりやすい業種です
- どの業種でも、帳簿と請求書・領収書などの原始記録を、決められた期間きちんと保存しておくことが備えの土台になります
国税庁の統計で見る、飲食業と建設業の位置づけ
国税庁は毎年11〜12月ごろ、前の事務年度(7月から翌年6月まで)の法人税等の調査事績を公表しています。令和7年12月に公表された令和6事務年度の資料には、「不正発見割合の高い業種(法人税)」の上位10業種が載っています。不正発見割合とは、実地調査をした件数のうち、仮装・隠蔽などの不正計算が見つかった件数の割合です。
| 順位 | 業種目 | 不正発見割合 |
|---|---|---|
| 1 | バー・クラブ | 62.3% |
| 2 | その他の飲食 | 45.2% |
| 3 | 外国料理 | 40.2% |
| 4 | 美容 | 34.5% |
| 5 | 大衆酒場、小料理 | 34.4% |
| 6 | 自動車修理 | 32.9% |
| 7 | 船舶 | 31.0% |
| 8 | 土木工事 | 30.4% |
| 9 | 職別土木建築工事 | 30.1% |
| 10 | 中古品小売 | 30.1% |
出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」別表2(1)。色付きの行は飲食・建設に関係する業種(当事務所で色分け)。
同じ資料で、法人税の実地調査全体の不正発見割合は23.5%です。上位10業種のうち飲食関係が4業種、建設関係が2業種で、いずれも全体の割合を上回っています。
個人事業者についても、「所得税及び消費税調査等の状況」(令和6事務年度)の「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」に、バー(6位)とスナック(9位)が入っています。
国税当局の実地調査は、資料情報等を分析して「調査必要度の高い法人」を抽出して行われます。そのため、この割合は調査を受けた法人の中での割合であり、「その業種の事業者の3割〜6割が不正をしている」という意味ではありません。飲食業・建設業だから調査を受ける、ということでもありません。
熊本県の状況
熊本国税局も、熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県の県別に調査事績を公表しています。令和6事務年度の熊本県版では、法人税の実地調査が720件、そのうち申告漏れなどの非違があったのが507件、不正計算があったのが157件で、不正発見割合は21.8%でした。熊本県版の資料には業種別の順位は載っていないため、業種ごとの傾向は上の全国の統計で見ることになります。
飲食店の税務調査で論点になりやすいポイント
現金売上と、日々の記録の整合
飲食店は現金で代金を受け取る場面が多く、売上の記録(レジの締め、伝票、予約台帳など)と、帳簿・預金の入金が一致しているかが確認の中心になります。国税庁が公表している調査事例(業種は示されていません)にも、売上伝票を破棄して現金売上を除外していた事例や、売上代金を代表者の個人口座に入金させていた事例が挙げられています。
最近はキャッシュレス決済の比率が上がっていますが、決済会社からの入金は手数料が差し引かれ、締め日もずれるため、入金額だけを売上にしていると実際の売上とのずれが生じます。日々の売上の記録と決済会社の明細を、月ごとに突き合わせておくことをおすすめします。
仕入と売上の釣り合い
食材や酒類の仕入は請求書や取引先の記録として残るため、売上の記録と照らし合わせて見られることがあります。仕入の量に比べて売上が少なく見える場合は、廃棄や店内での消費、メニューの価格改定など、その理由を説明できるようにしておくと安心です。廃棄が多い時期があれば、簡単なメモでも残しておくと、後から事情を説明しやすくなります。なお、個人事業の店主やご家族がお店の食材・商品を自分たちの食事などに使った分は、その価額を売上(総収入金額)に含める必要があります(所得税法第39条)。
まかない(従業員の食事)の扱い
従業員や役員に食事を支給すると、原則として給与(経済的利益)として扱われますが、次の2つの要件をどちらも満たせば給与として課税されません(国税庁 タックスアンサー No.2594)。
- 従業員・役員が、食事の価額の半分以上を負担していること
- 食事の価額から従業員・役員の負担額を差し引いた額が、1か月当たり7,500円(消費税等を除く)以下であること
※この7,500円は、令和8年4月1日以後に支給する食事に適用されます(改正前は3,500円)。お店で作った食事の価額は、材料費や調味料など、食事を作るために直接かかった費用の合計額で考えます。残業や宿日直のときに支給する食事は、無料でも給与として課税しなくてよいとされています。なお、食事を出すのではなく現金で食事代を渡す場合は、深夜勤務の夜食代(1回650円以下)を除き、全額が給与として課税されます。
まかないを無料で出していて、この要件を満たさない場合は、その分を給与として源泉徴収する必要があります。調査ではまかないの有無や負担の取り方を聞かれることがあるので、従業員から代金をもらっている場合は、その記録(給与からの天引きなど)を残しておきましょう。
アルバイト・パートの人件費
人の出入りが多い飲食店では、人件費の実態も確認されます。国税庁の公表事例には、偽りの出勤表などを作って架空の人件費を計上していた事例もあります。出勤の記録(タイムカードやシフト表)、給与の支払記録、源泉徴収の記録が、同じ人・同じ金額でつながっているかを確認しておくことが大切です。
建設業の税務調査で論点になりやすいポイント
外注費か、給与か
建設業では、一人親方や職人さんへの支払を「外注費」として処理していることが多くあります。ただ、契約書の名目ではなく、仕事の実態(指揮命令を受けているか、時間的な拘束があるか、材料や道具を誰が用意するかなど)によって給与と判断されることがあり、そうなると源泉所得税や消費税の扱いにも影響が及びます。この判断の考え方は、代表の平野が調査の現場で見てきたことを書いた「外注費のつもり」が、別の見方をされることがありましたで詳しく取り上げています。
国税庁の公表事例には、偽りの請求書を作って貸付金を外注費に見せかけた事例や、不正に加担した者に単価を水増しした請求書を発行させて外注費を過大に計上した事例もあります。外注先との契約書・発注書・請求書・支払記録がそろっているかは、日ごろから確認しておきたいところです。
期末をまたぐ工事の売上と原価
決算日の前後に完成・引渡しがある工事は、売上をどちらの期に計上するかが論点になりやすい部分です。法人税基本通達2-1-21の8では、建設工事等の引渡しの日について、作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方が使用収益できることとなった日など、工事の種類・性質や契約の内容に応じて合理的と認められる日のうち、法人が継続して収益計上を行うこととしている日によるとされています。期によって基準を変えるのではなく、自社の基準を決めて続けることが大切です(長期大規模工事や、工事進行基準・部分完成基準で計上している工事などは、別の取扱いになります)。
原価の側も同じです。法人税法第22条第3項第1号は、損金に算入する額として「当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価」を挙げています。期末にまだ完成・引渡しをしていない工事にかかった材料費や外注費は、原則としてその工事の売上を計上する期の原価になり、決算では「未成工事支出金」として資産に計上します。
期末をまたぐ取引の指摘に対応した事例は、決算期をまたぐ取引の指摘に対応し、追徴課税を大幅に抑えた事例でご紹介しています。
業種を問わず、日ごろから整えておきたい記録
調査で説明の裏付けになるのは、帳簿と、取引のたびに作ったり受け取ったりした書類です。法人の場合、帳簿と、注文書・契約書・領収書などの書類は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が必要です(青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間。国税庁 タックスアンサー No.5930)。
- 飲食店:レジの締めの記録、伝票、予約台帳、キャッシュレス決済の明細、仕入の請求書、まかないの負担の記録、出勤・給与の記録
- 建設業:工事ごとの契約書・注文書、請求書、引渡しや検収の記録、外注先との契約書・請求書・支払記録、工事ごとの原価の集計
すでに調査の連絡が来ている場合は、足りない書類を後から作り直したり書き換えたりせず、今ある記録のまま税理士にご相談ください。税務署から調査の連絡が来たときの流れや、事前通知で伝えられる内容は、熊本で税務調査の連絡が来たら|事前通知の内容と初動対応を国税OBが解説にまとめています。
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熊本で飲食店・建設業の税務調査を相談するなら
飲食業・建設業は、統計の上で不正発見割合が高い業種に並んでいますが、日々の記録と書類の保存を整えておけば、調査の場で事実に基づいて説明することができます。「今の処理で問題がないか見てほしい」「調査の連絡が来て不安だ」という段階でも、早めにご相談いただくほうが準備の選択肢は広がります。
仁王さん通り税務会計は熊本市中央区坪井の税理士事務所で、代表の平野和博は国税組織で30年にわたり税務調査の第一線で経験を積み、累計500件を超える調査に携わってきました。調査官がどこを確認するのかという視点から、調査前の準備と当日の立会い(熊本県内)、調査後の対応までご支援します。サービスの内容は税務調査対応、全国からのご相談は税務調査対応のご案内、費用の目安は料金プランをご覧ください。初回40分のご相談は無料です。お問い合わせフォームから、またはお電話(096-288-3894/平日8時30分〜17時30分、メールは24時間受付)でお気軽にお声がけください。
- 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)
- 熊本国税局「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要(熊本県版)」(令和7年12月)
- 国税庁 タックスアンサー「No.2594 食事を支給したとき」「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
- 国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」(令和8年4月)
- 国税庁「法人税基本通達 第2章第1節第3款 役務の提供に係る収益」(2-1-21の8)
- e-Gov法令検索「法人税法」(第22条第3項)
※ 上記の各資料をもとに当事務所が要約・編集しています。統計は令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の実績です。税制の内容は改正されることがあります。本記事は2026年9月時点の公表情報に基づいています。