経営者が本当に恐れているのは、税金そのものではありません
国税の現場で30年仕事をしてきた中で、調査の場で経営者の方が、一番恐れていたものは何か。意外に思われるかもしれませんが、追徴税額そのものではないことが、よくありました。
「先生、税金はちゃんと払います。だから、取引先にだけは税務署から連絡させないでください」
これは、調査の現場で本当に何度も聞いた言葉です。経営者にとって、税金は払えば終わる話です。ですが、取引先や銀行からの信用は、一度失うと、取り戻すのに何年もかかります。だからこそ、経営者は本能的に「外側に伝わること」を最も恐れるのです。
そして、その恐れの中心にあるのが、「反面調査」という言葉です。
反面調査とは何か
反面調査とは、ざっくり言えば、調査対象の事業者の取引相手や金融機関などに対して、税務署が直接“裏取り”をしに行く調査です。そして、その方法は、ご想像以上に多彩です。
▶ 工事完了日の確認(完了報告書を取引先に確認しに行く)
▶ 金額の改ざんの確認(「ゼロを一つ足した」形跡のある領収書の真偽を、発行元で確認する)
▶ 文書照会(郵送で取引先に書面で問い合わせる)
▶ 取引先への臨場(直接お邪魔して、伝票・帳簿を見せていただく)
▶ 銀行への預金照会(別口座や資金移動の確認)
いずれも、裏取りとしての効果は絶大です。そして、もう一つ正直に申し上げると、調査に協力していただけない納税者の方に対しては、いくぶん“揺さぶり”の要素を含むこともあったのが、現場の実情でした。反面調査が繰り返されると、納税者の方から、「もう、お願いだからやめてくれ!」と折れてこられる場面が、しばしばあったのです。
「更正でもなんでもすればいいだろう!」
ここからは、私自身が現場で出会った、忘れられない反面調査の話です。
ある業種の調査でした。業界の特性として、一般的には接待交際費の支払いが少なめの業種だったのですが、その会社だけは、接待交際費が明らかに高額過ぎる水準でした。
これは見直しが必要だなと判断し、立会いの税理士の先生に、その旨をお伝えしました。すると、返ってきた言葉が、これでした。
「じゃあ、更正でもなんでもすればいいだろう!」
激昂しながらの一言です。正直に言って、ここまで言われると、こちらも気合が入るというものです。私は、静かに「分かりました」とだけお伝えして、反面調査に切り替える決断をしました。
キャバクラの領収書、その「説明」
接待交際費の中で、特に目立っていたのが、キャバクラの領収書でした。何枚もある、金額も大きい。社長と顧問税理士のご説明は、こうでした。
「これは、売上獲得のために、得意先を連れて行ったものだ」
接待交際費の説明として、よくある回答です。そして、おそらく社長も顧問税理士も、心のどこかでこう思っておられたはずです。
「まさか、ここまでは確認しないだろう」
ところが、こちらは違います。反面調査と決めた以上、徹底してやる ―これが、国税の現場の流儀です。
キャバクラの事務所にお邪魔しました
私は、領収書を発行していたキャバクラの事務所にお邪魔しました。そして、伝票を一枚一枚、すべて確認させていただき、その日その日の支払いの内容を精査しました。
▶ 誰の名前で来店していたか
▶ 同伴は何名だったか
▶ 何時から何時までいたか
▶ 誰を指名していたか
▶ どんな飲み物・サービスが注文されていたか
さて、ここまで読んでくださった方は、こう思われるかもしれません。「で、結局、どんな“接待”だったんですか?」
答えは、こうでした。
「社長は一人で来店していた」「毎回、同じ嬢を指名していた」「シャンパンやら何やらを、毎回大量に注文していた」
得意先を連れていったどころか、そこに得意先は、一人もいなかったのです。
仮装隠蔽 ―税理士が、慌て始める
これは、経費の仮装隠蔽行為にあたります。個人的な飲食代を、接待交際費という名目で会社の経費に紛れ込ませていた、ということです。重加算税の対象になる、典型的な事案です。
事実関係を突きつけた瞬間、あれだけ激昂していた顧問税理士の先生が、今度はもう、慌てまくりでした。
「何でも協力します!」「他のところも、ちゃんと確認します!」
立場が、一気に逆転した瞬間でした。
そこで、私はこう伝えました
ここで終わらせないのが、現場の仕事です。私は、その会社の接待交際費のうち、ある一定以上の金額の領収書を、すべてピックアップしました。そして、こうお伝えしました。
「この中で、社長が一人で行かれた経費の支払いを、全部確認してきてください」
そして、もう一言、こう付け加えました。
「こちらは、他の店舗の支払情報も、すでに確認しております。嘘をつかれてもバレますし、心証が悪くなりますよ」
これが、反面調査の本当の使い方です。こちらは、すでに外側から事実を押さえている。その上で、ご本人に確認させる。ここで嘘をつけば、それは“知らなかった”では済まなくなる ―そういう流れを、静かに作っていくのです。
「申し訳ありませんでした!」
社長からの最初の回答は、まだ嘘が混じっていました。「これは本当に得意先と行きました」「これは間違いなく接待です」 ―こうした主張が、まだ続いていたのです。
そこで、私はこう告げました。
「分かりました。それでは、税理士さんのご希望どおり、更正処分させていただきます」
その瞬間、社長の態度が、ガラッと変わりました。
「申し訳ありませんでした!」
そして、ここからが面白いところです。社長は、私が反面調査をしていない店舗の経費支払いについてまで、「実はあれも、一人で行きました」「これも一人でした」と、自ら認め始めたのです。「もう、嘘をつき続けることはできない」と覚悟された瞬間でした。
事実は、一つだけです
この一件を通じて、改めて感じたことがあります。
事実は、一つだけです。
社長の中の事実、税理士の中の事実、店の伝票の中の事実 ―これらは、本来、すべて同じ一つの事実を別の角度から映しているだけです。反面調査は、その「別の角度から映した事実」を、丁寧に拾い上げていく作業に他なりません。だからこそ、自社の中だけで“事実を変える”ことはできないのです。
反面調査の破壊力の本当の強さは、ここにあります。
反面調査をされないために、できること
反面調査をされないために、できることはシンプルです。
▶ 売上・仕入・経費の書類が、事実と一致していること
▶ 接待交際費の内容を、第三者にきちんと説明できること
▶ 銀行口座は、事業用と個人用が明確に分かれていること
▶ 説明の一貫性があること
これらが整っていれば、調査官は外側に裏取りに行く必要を感じません。そして、もし税務調査の連絡が来た段階であっても、反面に発展しないように受け止め方を組み立てることは、十分に可能です。ここに、税理士の本当の腕の見せ所があります。
困ったときは、仁王さん通り税務会計にお任せください
反面調査は、
▶ 取引先・銀行・店舗など、外側の世界に裏取りが入る
▶ 自社の中だけでは、つじつまを合わせきれない
▶ 入られた瞬間に、取引先や銀行への信用にも影響する
▶ そして何より、事実は一つしかなく、隠しきれない
という、経営の信用そのものに直結する論点です.
私は調査する側として、反面調査で経営の足元が大きく揺らいだ会社を、本当に多く見てきました。そのほとんどは、「ここまでは確認しないだろう」と思っていたケースです。
税務調査の連絡が来た、これから来るかもしれない、最近、取引先や銀行の対応が気になる ―どの段階であっても、ご相談いただいて構いません。反面に発展する前に、一緒に体制を整えていきましょう。
調査の連絡が来た直後の動き方は熊本で税務調査の連絡が来たら、重加算税が課される場面は重加算税はどんな場合に課される?、対応の全体像は税務調査対応のページにまとめています。初回40分のご相談は無料です。お電話(096-288-3894/受付:平日8:30〜17:30)またはフォームからお気軽にどうぞ。
困ったときは、ぜひ 仁王さん通り税務会計 にご相談ください。