熊本で会社を経営されている方から、「引退するときの役員退職金は、いくらまで会社の経費(損金)にできるのか」「いつ支給すれば損金になるのか」というご相談をいただくことがあります。役員退職金は金額が大きくなりやすく、法人税の取扱いにも細かな決まりがある項目です。この記事では、熊本の中小企業の経営者の方に向けて、役員退職金が損金になる金額の考え方、損金になる時期、引退せずに支給する場合の注意点、受け取る側の税金を、法令と国税庁の資料をもとに整理します。
- 役員退職金は、相当と認められる金額であれば損金になります。不相当に高額な部分は損金になりません
- 相当かどうかは、業務に従事した期間、退職の事情、同業で規模が似た法人の支給状況などに照らして判断されます
- 損金になる時期は、原則として株主総会の決議等で金額が具体的に確定した日の事業年度です
- 引退せずに役職を変えて支給する「分掌変更」は、実質的に退職したのと同様の事情があることが前提です
- 受け取る側は「退職所得」となり、勤続年数に応じた控除と2分の1課税(一定の場合を除く)があります
役員退職金は「相当な金額」なら損金になる
役員に支払う給与は、毎月同額の「定期同額給与」や、事前に届け出た「事前確定届出給与」などの形でなければ、原則として損金になりません(法人税法34条1項)。ただし、退職給与で業績連動給与に該当しないものは、この制限の対象から外されています。役員退職金は、毎月の役員報酬とは別のルールで扱われるということです。
一方で、役員に支給する給与のうち「不相当に高額な部分」は損金になりません(同条2項)。退職給与について、どこからが不相当に高額かは、法人税法施行令70条2号で次のように定められています。
- その役員が法人の業務に従事した期間
- その退職の事情
- 同種の事業を営む法人で、事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況 など
これらに照らして、退職給与として相当と認められる金額を超える部分が「不相当に高額な部分」とされます。
金額の考え方と「功績倍率法」
役員退職金の金額を考えるときに広く知られている算定方法に、いわゆる「功績倍率法」があります。国税庁の通達では、功績倍率法を「役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法」と説明しています(法人税基本通達9-2-27の3)。式にすると、おおむね次の形です。
同じ通達は、功績倍率法に基づいて支給する退職給与は業績連動給与に該当しないことも明らかにしています。ただし、倍率を何倍にすれば安全という基準が法令で決まっているわけではありません。最終的には、上で見た「業務に従事した期間」「退職の事情」「同業・同規模の法人の支給状況」などに照らして相当かどうかが判断されます。
また、この方法では退職直前の報酬が計算の基礎になるため、基礎となる報酬の水準そのものも、あわせて点検しておきたいところです。支給にあたっては、役員退職金の規程を整え、金額の根拠を書面で残しておくことが、後から説明を求められたときの備えになります。
いつの事業年度の損金になるのか
役員退職金を損金にできる時期は、原則として株主総会の決議等によって金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。ただし、実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その支払った事業年度の損金とすることも認められています(法人税基本通達9-2-28)。
金額が具体的に確定する事業年度より前に、取締役会で内定した金額を未払金として計上しても、その時点では損金になりません(国税庁 タックスアンサーNo.5208)。
役員退職金を支給する事業年度は、法人の利益が大きく下がる年になりやすいため、ほかの収入や費用のタイミングとあわせて計画しておくことが大切です。たとえば経営セーフティ共済の解約手当金を受け取る時期との関係は、中小企業の節税の基本|熊本の経営者が最初に押さえる7つのポイントでも触れています。
引退せずに支給する「分掌変更」の注意点
事業承継の場面では、社長が代表を後継者に譲り、自分は会長や非常勤の役員として会社に残るケースがあります。このように役員を辞めずに退職金を支給する場合、退職給与として扱えるのは、分掌変更によって役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情にあると認められる場合です(法人税基本通達9-2-32)。通達は、例として次の事実を挙げています。
- 常勤役員が非常勤役員になったこと(代表権がある方や、実質的に経営上主要な地位を占めている方を除く)
- 取締役が監査役になったこと(実質的に経営上主要な地位を占めている方などを除く)
- 分掌変更の後の給与がおおむね50%以上減少したこと(その後も経営上主要な地位を占めている方を除く)
どの例にも、経営上主要な地位を占めていると認められる方を除くという条件が付いている点が重要です。肩書きを会長に変え、報酬を半分以下にしても、退任後も実際に経営の判断に関わり続けていれば、退職給与として認められない可能性があります。また、分掌変更に伴う退職給与を未払金として計上した場合、その金額は原則として「退職給与として支給したもの」に含まれません(同通達の注)。
通達の例示からは、肩書きや報酬の数字だけでなく、退任後も経営上主要な地位を占めているかどうかという実際の関わり方まで見られることが分かります。税務調査の連絡が来たときの流れは、熊本で税務調査の連絡が来たら|事前通知の内容と初動対応を国税OBが解説もご覧ください。
受け取る側の税金|退職所得の計算
役員退職金を受け取った方の所得は「退職所得」となり、ほかの所得と分けて計算します。原則の計算式は次のとおりです(所得税法30条)。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
たとえば勤続年数30年の場合、退職所得控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円です。退職金が3,000万円なら、(3,000万円-1,500万円)×1/2=750万円が退職所得の金額になります。なお、前年以前に退職金を受け取ったことがある場合(分掌変更の際に一度受け取った場合など)や、同じ年に2か所以上から受け取る場合は、控除額の計算が異なることがあります(国税庁 タックスアンサーNo.1420)。
役員等としての勤続年数が5年以下の方が、その期間に対応して受け取る退職金(特定役員退職手当等)には、2分の1の計算が適用されません(所得税法30条2項・5項)。法人成りして間もない会社の役員が退職金を受け取る場合などは、特に確認が必要です。
受け取る方が会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、会社が税額を計算して源泉徴収するため、原則として確定申告は必要ありません。提出していない場合は、支払金額の20.42%が源泉徴収され、本人の確定申告で精算します(国税庁 タックスアンサーNo.1420)。
熊本で役員退職金・事業承継を相談するなら
役員退職金は、引退や代替わりのタイミングと重なることが多い項目です。熊本では、国が設置する公的な相談窓口として「熊本県事業承継・引継ぎ支援センター」(熊本市中央区横紺屋町10 熊本商工会議所5階)があり、親族への承継も第三者への引継ぎも無料で相談できると熊本市が案内しています。熊本市も事業承継に関する相談会を開催するなど、地域で支援の取り組みが進められています。
仁王さん通り税務会計は、熊本市中央区を拠点に、国税での30年の経験をふまえて、役員退職金の金額の検討や支給時期の計画、分掌変更の際の税務上の注意点などを、税務顧問の中でご支援しています。個人事業から会社にするかどうかの判断については熊本で会社設立・法人成りの判断|個人事業からのタイミングと手順も参考にしてください。費用の目安は料金プランをご覧ください。初回40分のご相談は無料です。お問い合わせフォームから、またはお電話(096-288-3894/平日8時30分〜17時30分、メールは24時間受付)でお気軽にお声がけください。
- e-Gov法令検索「法人税法」(第34条)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(第70条)
- e-Gov法令検索「所得税法」(第30条)
- 国税庁「法人税基本通達 第7款 退職給与」(9-2-27の3・9-2-28・9-2-32)
- 国税庁 タックスアンサー「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」
- 国税庁 タックスアンサー「No.5203 使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金」
- 国税庁 タックスアンサー「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 熊本市「事業承継、M&Aの支援について」
※ 上記の各資料をもとに当事務所が要約・編集しています。税制の内容は改正されることがあります。本記事は2026年10月時点の公表情報に基づいています。