熊本で金属スクラップの買取をしている事業者の方、また解体工事や設備工事で出た銅線などを買取業者に売っている方に向けた記事です。令和8年9月1日から、銅を主とする金属くず(特定金属くず)を買い取ったときの消費税の仕入税額控除の扱いが変わりました。新しく設けられた「特定金属くず特例」の中身と、帳簿の書き方、売る側として知っておきたいことを、税理士が一次資料をもとに整理します。
- 金属盗対策法の「特定金属くず」(現時点では主に銅のくず)は、令和8年9月1日以後の仕入れから、古物商特例・再生資源等特例の対象から外れました
- 代わりに、同法の「特定金属くず買受業」の届出をしている事業者が棚卸資産として買い受ける場合に限って、インボイスのない相手からの仕入れでも帳簿のみの保存で仕入税額控除ができます
- 帳簿には、通常の記載事項に加えて「特定金属くず特例の対象となる旨」と「相手方の住所又は所在地」の記載が必要です
- 金属盗対策法の記録の保存期間は3年間ですが、消費税の帳簿の保存期間は7年間です
令和8年9月1日から何が変わったのか
インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるには、原則として帳簿と請求書等(インボイス)の両方を保存する必要があります。ただし、インボイスを受け取るのが難しい一部の取引については、一定の事項を記載した帳簿だけを保存すれば控除が認められています。金属スクラップの買取で使われてきたのが、古物商が古物を買い取る場合の「古物商特例」と、再生資源卸売業者などが再生資源を買い取る場合の「再生資源等特例」です。
令和8年度税制改正で、このうち特定金属くずが古物商特例・再生資源等特例の対象から除かれ、その上で、金属盗対策法の特定金属くず買受業の届出をしている事業者が、適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産(消耗品を除く)として買い受ける特定金属くずについて、帳簿のみの保存で仕入税額控除を認める「特定金属くず特例」が設けられました。この見直しは、令和8年9月1日以後に行う課税仕入れに適用されます。
| インボイスのない相手から特定金属くずを買い受けた場合 | 帳簿のみの保存による仕入税額控除 |
|---|---|
| 金属盗対策法の届出をしている | 控除できる(特定金属くず特例) |
| 金属盗対策法の届出をしていない | 帳簿のみの保存では控除できない |
出典:国税庁「令和8年度 税制改正特集」の図をもとに当事務所が作成。令和8年9月1日以後の課税仕入れが対象です。
つまり、特定金属くずの買取をしている事業者は、古物商の許可や再生資源卸の事業をしていても、金属盗対策法の届出がなければ、インボイスのない相手からの特定金属くずの仕入れについて、帳簿のみの保存による仕入税額控除は受けられないことになります。なお、特例の対象は適格請求書発行事業者でない者からの仕入れです。相手方がインボイス発行事業者であれば、これまでどおりインボイスの交付を受けて保存します。
帳簿のみの保存による控除が使えない場合でも、免税事業者等からの課税仕入れには、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります(令和8年10月1日から令和10年9月30日までは70%)。ただし、区分記載請求書の記載事項を満たした書類等の保存が必要で、一の相手方からの仕入れの合計額が一定額を超える部分には適用できないなどの制限があります(インボイスQ&A問113)。
「特定金属くず」と「特定金属くず買受業」とは
対象は、いまのところ銅くず
金属盗対策法(盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律)では、特定金属くずを「主として特定金属により構成されている金属くず(物品を製造する過程において生ずるもの及び古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第二条第一項に規定する古物に該当するものを除く。)」と定めています。警察庁の説明では、現時点の対象は「主として銅により構成されている金属くず」です。熊本県警察の説明資料でも、銅の重量または価額の50%以上を占める場合は銅とみなされると説明されています。
また、金属製品がそのまま使えるかどうかで、適用される法律が分かれます。熊本県警察の資料では、本来の用法で使用できるものは古物営業法、本来の用法で使用できないものは金属盗対策法(または金属くず条例)の対象として整理されています。同じエアコンの室外機でも、古物に当たるか金属くずに当たるかで本人確認の根拠となる法律が変わり、消費税で検討する特例も変わることがあります。
届出は営業所ごとに、警察署を通して公安委員会へ
特定金属くずの買受けを行う営業(特定金属くず買受業)を営もうとする人は、営業所ごとに、その所在地を管轄する都道府県公安委員会に届け出なければなりません(金属盗対策法第3条)。熊本県警察の資料によると、届出書は営業所の所在地を管轄する警察署に提出します。届出が必要になったのは令和8年6月1日からで、その時点ですでに営業していた事業者は、施行の日から起算して3か月を経過する日(令和8年8月31日)までに届け出ることとされていました(同法附則)。
届出をすると、営業所の見やすい場所に氏名または名称・届出をした公安委員会の名称・届出番号を表示する必要があります。熊本県警察の資料では、従業者数が5人以下の場合や自社のウェブサイトを持っていない場合を除き、ウェブサイト上での表示も必要とされています(同法第5条)。また、買受けのときには相手方の本人確認と、その記録や取引の記録の作成・保存も義務になります。
なお、法律上の「買受け」には、代金の代わりに金銭以外の財産上の利益を提供する場合も含まれます(同法第2条第4号)。解体業者や設備工事業者が自社で銅くずを引き取っている場合も含め、届出が必要かどうかの判断や手続きは、営業所の所在地を管轄する警察署にご確認ください。届出は消費税の申告方式(一般課税・簡易課税など)とは関係なく必要になるものです。
特例を使うための帳簿の書き方
帳簿のみの保存で仕入税額控除を受ける取引では、通常の帳簿の記載事項に、次の事項を加えて記載します(国税庁「インボイスQ&A」問110)。
- 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- 課税仕入れを行った年月日
- 課税仕入れに係る資産の内容(例:銅線くず)
- 課税仕入れに係る支払対価の額
- 特定金属くず特例の対象となる旨
- 課税仕入れの相手方の住所又は所在地
※6の住所等は、金属盗対策法で本人特定事項として住居などの確認を行うこととされていない取引では、記載を要しません。
金属盗対策法では、買受けの相手方が個人なら氏名・住居・生年月日、法人なら名称と本店または主たる事務所の所在地を確認し、本人確認記録を作成します。国税庁のQ&Aでは、この本人確認記録を消費税の帳簿の保存期間にわたって保存する場合には、帳簿に「相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地」の記載があるものとして扱って差し支えないとされています。本人確認記録を作成しない場合でも、取引記録から相手方の本人特定事項が確認できれば、その取引記録の保存で代えることができます。
金属盗対策法では、本人確認記録と取引記録の保存期間は、買受けの日から3年間です(同法第8条・第9条)。一方、消費税の帳簿は、課税期間の確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存が必要です。本人確認記録や取引記録を帳簿の記載に代えて使う場合は、金属盗対策法の3年で処分せず、7年間保存するようにしてください。
帳簿のみの保存で控除を認める特例では、帳簿の記載がそのまま控除の根拠になります。「特例の対象となる旨」の書き漏れや、銅くずとそれ以外の金属くずの区分があいまいな記帳は、後から説明が難しくなります。記帳の方法を変えるときは、9月以後の取引からまとめて見直しておくのがおすすめです。帳簿の不保存や記載不備に対する令和4年度改正の取扱いは、記帳義務の適正な履行についてで取り上げています。
銅くずを売る側(解体・設備工事業者など)が知っておきたいこと
この特例は買い取る側の仕入税額控除の話ですが、解体工事や電気・設備工事で出た銅線などを買取業者に売る側にも関係があります。
- 本人確認を求められる:届出をした買取業者は、買受けの際に相手方の本人確認を行う義務があります。熊本県警察の資料では、個人は運転免許証やマイナンバーカードなどの顔写真付きの本人確認書類の提示、法人は実際に取引を担当する人の本人確認に加えて、登記事項証明書の提示などの方法が示されています。2回目以降の取引で代金を相手方の口座に振り込む場合などは、本人確認が不要とされています。
- インボイス発行事業者かどうかで扱いが分かれる:売る側がインボイス発行事業者であれば、買取業者はインボイスを保存して控除を受けます。売る側がインボイス発行事業者でない場合は、買取業者が届出をしていれば特定金属くず特例で控除を受けることになります。
- 売る品目を正しく伝えられるようにしておく:銅を主とする金属くずか、それ以外の金属くずか、そのまま使える製品(古物)かによって、買取業者側の扱いが変わります。売るときに品目を正しく伝えられるよう、現場での分別や記録を整えておくと取引がスムーズです。
建設業の帳簿や書類の整え方は、熊本の飲食店・建設業の税務調査|国税庁の統計で見る業種別のポイントでも取り上げています。
簡易課税・2割特例で申告している場合
この特例が控除額に直結するのは、実際の仕入れをもとに仕入税額を計算する一般課税(本則課税)で申告している事業者です。簡易課税制度は、国税庁の説明では「売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度」で、2割特例も売上税額の一定割合で納付税額を計算します。そのため、どの方式で申告しているかによって、この改正が消費税額に与える影響の大きさは変わります(金属盗対策法の届出の要否は、申告方式とは関係ありません)。
なお、2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了し、その後の選択肢として3割特例(個人事業者のみ)や簡易課税への移行があります。詳しくはインボイスの2割特例は令和8年9月で終了|熊本の小規模事業者の次の選択で解説しています。金属スクラップの仕入れが多い事業者は、一般課税と簡易課税のどちらが有利かも、仕入れの実態とあわせて見直しておきたいところです。簡易課税は事前に届出書を出して選択する制度で、選択するとその効力が生ずる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければやめる届出ができない(国税庁 タックスアンサー No.6505)ため、切り替えは数年単位で検討します。
熊本で金属スクラップ取引の消費税を相談するなら
特定金属くず特例は、金属盗対策法の届出と消費税の帳簿の両方がそろって、はじめて使える制度です。「届出はしたが、帳簿の書き方がこれで合っているか不安」「古物と金属くずの区分をどう記帳すればよいか分からない」といった段階でも、早めにご相談いただくほうが、9月以後の取引の記帳をまとめて整えやすくなります。
仁王さん通り税務会計は熊本市中央区坪井の税理士事務所で、代表の平野和博は国税組織で30年にわたり税務調査の第一線で経験を積み、累計500件を超える調査に携わってきました。消費税の申告方式の検討から日々の記帳まで、税務顧問や記帳代行でご支援しています。費用の目安は料金プランをご覧ください。初回40分のご相談は無料です。お問い合わせフォームから、またはお電話(096-288-3894/平日8時30分〜17時30分、メールは24時間受付)でお気軽にお声がけください。
- 国税庁「令和8年度 税制改正特集」(その他:特定金属くず特例の創設)
- 国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂)問104・問106・問110・問113
- 国税庁 タックスアンサー「No.6505 簡易課税制度」
- e-Gov法令検索「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」(第2条・第3条・第7条〜第9条・附則)
- 警察庁ウェブサイト「金属盗対策」
- 熊本県警察「金属盗対策法について」(説明資料)
※ 上記の各資料をもとに当事務所が要約・編集しています。税制の内容は改正されることがあります。本記事は2026年10月時点の公表情報に基づいています。