2026.07.30 / 税務調査

「電算システム」から「KSK2」へ ― 元国税調査官が語る、30年の進化と“AIが選ぶ調査”のリアル

「電算システム」から「KSK2」へ―元国税調査官が語る、30年の進化とAIが選ぶ調査のリアル

令和8年9月、国税庁のシステムが生まれ変わります

今回は少し、旬のお話をさせてください。

令和8年(2026年)9月、国税庁の基幹システムが、大きく生まれ変わります。
現在使われている KSK(国税総合管理システム) から、次世代システム 「KSK2」 への刷新です。

「システムの話なんて、うちの会社には関係ないだろう」
そう思われた経営者の方も、少しだけお時間をください。
このシステム刷新は、税務調査のあり方そのものを変える可能性がある、非常に大きな出来事です。
そして、その影響を最も受けるのは、中小企業と、その経営者なのです。

「NT」「SKショウカイ」の時代がありました

少しだけ、昔話をさせてください。

KSKが導入される前の時代、税務署の納税者管理は、5インチのペラッペラなフロッピーディスクを使う電算システムで行われていました。
昭和の国税OBには懐かしい響きでしょう ―「NT」や「SKショウカイ」といった業務です。

当時の私たちは、フロッピーを差し込み、緑色の画面を眺めながら、納税者の情報を一件一件確認していました。今、思い返せば牧歌的な時代です。

その後、KSKシステムが導入されました。
オリジナルのOSで、正直に申し上げると、最初は本当に使いづらかった記憶があります。
ですが、これが少しずつ進化し、拡張され、気づけば 「KSKがなければ仕事にならない」というところまで来ました。全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告・納税事績や資料情報を一元的に管理する ―まさに、国税の頭脳となったのです。

そして、その頭脳が、約25年ぶりに全面刷新されます。
しかも今度は、AIという、まったく新しい武器を伴って。これは、あなどれない進化です。

KSK2の、三つの大きな変化

KSK2で何が変わるのか。ポイントは大きく 三つ あります。

①「税目の壁」がなくなります

現行のKSKでは、法人税、所得税、消費税、相続税といった 税目ごとに、データが縦割りで管理されていました。
KSK2では、これらの壁が取り払われ、税目横断で情報を参照できるようになります。

日本の法人の 96.7%は同族会社と言われます。つまり、ほとんどの中小企業では、法人と社長個人、そして親族との間で、日常的にお金が動いています。
KSK2の導入により、この一族全体のお金の流れを、税目をまたいで一気に把握できるようになる ―これは、調査する側から見れば、非常に大きな武器を手にすることになります。

②調査官が、現場からアクセスできるようになります

これまでのKSKは、税務署の庁舎内でしか使えないシステムでした。
KSK2では、調査先から、その場でシステムにアクセスできるようになります。

調査官が御社の会議室に座ったまま、パソコン一つで、取引先の申告状況、金融機関への照会結果、関連会社のデータ、過去の申告履歴 ―これらを リアルタイムで確認できる、そんな世界がやってきます。
「後で調べます」がなくなり、その場で追及される時代になる、と言い換えてもいいかもしれません。

③紙の申告書も、AI-OCRで“全件データ化”されます

そして、紙で提出された申告書についても、AI-OCRで 全件スキャンしてデータ化される方向で開発が進んでいます。
つまり、電子申告であっても、紙の申告書であっても、最終的にすべての情報がデジタルデータとしてKSK2に蓄積され、AI分析の対象になるということです。

「資料情報カード」の話をさせてください

ここで、少し個人的な話をさせてください。

私が現役の頃、税務署の情報蓄積のあり方について、「資料情報カードを復活させるべきだ」と、機会があるたびに提唱していました。
(もっとも、誰も聞いてくれませんでしたが(笑))

資料情報カードとは、申告事績のない者を継続的に管理するために、物理的に資料化したものを名寄せして保存しておくものです。
「あの人はまだ申告していない」「あの取引情報は、この人と紐づく」 ―こうした情報を、地道に積み上げていく仕組みです。
無申告者を掘り起こす、非常に強力な武器になり得るものでした。

なぜ、いま私がこの話を持ち出したのか。
それは、KSK2にAIが導入されると、まさに私が提唱していたことを、AIが自動で管理し始めるからです。

これまで、人手が足りずに埋もれていった情報。
名寄せしきれなかった資料。
「そのうち、いつか」と後回しになっていた案件。

これらが、AIによって、すべて自動的に紐づけられ、蓄積されるようになる。
そして、無申告者の掘り起こしに、有効活用される。
別稿でも触れましたが、「この店、申告せんでもわからんだろう」という感覚は、これから本当に通用しなくなります。

「AIが選んだ事案は、必ず調査する」時代

ここからは、あまり外では語られない、現場の実情をお話しします。

現在、税務調査の対象事案は、AIが選定しています。
では、AIの選定と、人間(調査官)の選定、どちらが優先されると思われますか?

答えは、AIです。

もし、人間が選定した事案を調査対象にしようとすると、

「なぜAIが選定した者から先に調査しないのか!」

と、某所からお叱りを受けるほどです。

さらに、AIが選定した事案は、必ず調査するよう指導されている、というのが現在の運用です。
そして、その調査結果は、AIに学習させ、次の選定に活かす目的で管理される ―つまり、AIは日々、賢くなり続けているわけです。

正直に申し上げて、現状では、「AIに使われている感」は否めません。
ですが、これから数年、AIが学習を重ねていけば、調査現場は激変すると、私は見ています。

一方で、調査官の“目”は落ちていくかもしれません

もう一つ、現場の視点から、正直な予測を申し上げます。

AIが選定を担い、AIが分析を担うようになると、調査担当者の選定能力・調査能力そのものは、落ちていく可能性があります。
これまでの調査官は、資料の海の中から違和感を拾い上げる 職人でした。
ですが、AIが自動で拾ってくれるなら、その職人技を磨く必要性は、確実に薄れていきます。

一方で、AIは疲れません。休みません。人手不足も関係ありません。
これまでは、調査官の人数と時間の制約から、対応しきれずに埋もれていた案件が、確実に存在していました。
KSK2の時代には、この「埋もれていた案件」まで、AIが次々と拾い上げてくるようになります。

その結果、何が起きるか。
一件一件の調査官の”目の鋭さ”は薄まるかもしれない。けれども、「網にかかる件数」そのものが、圧倒的に増える。
これが、私が予測する、KSK2時代の税務調査の姿です。

そして、税務署からのアプローチが増えるということは、これまでなら「見逃されていた」層にまで、調査の手が伸びるということでもあります。

中小企業経営者が、今から備えるべきこと

では、経営者としては何をしておけばよいのか。ポイントは三つです。

①「その場で説明できる」体制を作っておく

調査官が現場からデータにアクセスできる時代です。
請求書・領収書・契約書などの証憑を、いつでも、迅速に確認できる状態にしておく。これが、これまで以上に重要になります。

②税目をまたいで、整合性を確認しておく

法人税・消費税・源泉所得税・そして社長個人の所得税 ―これらの間で、申告内容に不整合がないかを、決算・申告の段階で確認しておく。
KSK2は、この不整合を真っ先に見つけ出してきます。

③デジタル化を、少しずつでも進めておく

クラウド会計、電子帳簿保存法への対応、証憑のデジタル保存 ―一気にすべてをやる必要はありません。
ただ、今から少しずつでも始めておくことが、令和8年9月以降の景色を大きく変えます。

困ったときは、仁王さん通り税務会計にお任せください

KSK2の導入は、

  • 税目の壁がなくなり、同族会社全体が横断的に見られるようになる
  • 調査官が 現場からリアルタイムでデータにアクセスできるようになる
  • 紙の申告書も AI-OCRで全件データ化され、AI分析の対象になる
  • AIが選定した事案は、必ず調査される運用が定着している
  • 税務署からのアプローチは、これから確実に増える

という、税務行政の大きな転換点です。

私は「NT」「SK照会」の時代から、KSK、そしてKSK2の入り口まで、内側から見てきました。
だからこそ、この変化の大きさを、リアルに感じています。

「AIに追いかけられる時代」と聞くと、少し身構えてしまうかもしれません。
ですが、正直に、丁寧に、日々の記録を残していれば、恐れる必要は何もありません。
むしろ、KSK2は、真面目に申告している事業者にとっては、負担が軽くなる面もあります。

税目をまたいだ整合性チェック、証憑管理、デジタル化への一歩 ―
「うちも、そろそろ何か始めたほうがいいのかな?」と感じられたら、その時点でご相談ください。

困ったときは、ぜひ 仁王さん通り税務会計 にご相談ください。

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