税務署には、毎日のように“情報”が届いています
国税の現場で30年仕事をしてきた中で、世間にあまり知られていない事実を、一つお伝えします。
ということです。世間で言う「タレコミ」ですが、国税の世界では、これを「部外情報」と呼んで管理しています。
部外情報が届くと、税務署はまずその信ぴょう性を評価します。信ぴょう性があると判断されれば、申告内容を精査し、疑義があれば実際の調査につなげていく ―これが、内部での標準的な流れです。
つまり、タレコミは、調査の“きっかけ”として、実際に機能しているということです。
「電話のタレコミ」は、一発勝負
ここから先は、当時、現場の中で私自身がよく考えていた話です。
部外情報には、手紙・はがき・メールなど、いろいろな経路があるのですが、その中でも難しいのが「電話によるタレコミ」でした。
電話のタレコミは、ほとんどの場合、非通知でかかってきます。こちらから折り返す手段がない、ということです。つまり、最初の電話の“その一回”で、必要な情報をすべて聞き取らなければならない、一発勝負になります。
ところが、税務署の電話というのは、外線がまず総務課(または電話交換)で受けることになっています。ということは、タレコミの最初の声を聞くのは、調査経験の浅い職員、あるいは調査の勘所をあまり知らない職員である、というケースが少なくないわけです。電話を受けた職員に、
- 何を、どう深掘りすればよいか
- どこを押さえれば、後で調査担当者が動けるか
- どのキーワードが、致命的な“決め手”になり得るか
こうしたものが分かっていないと、せっかくのタレコミも、「ふんわりした抽象的な情報」で終わってしまいます。そうなると、調査担当者が動こうにも、動くタイミングを失してしまうことがあるのです。これは現場の人間として、いつも「もう少し、どうにかならないものか」と感じていた部分でした。
私が熊本東税務署の総務係長だった頃
実は私自身、熊本東税務署の総務係長を務めていた時期があります。ちょうど、その総務課で外線を受ける立場だったわけです。
当時、私は意識的に、部外情報の電話を受けるときには、踏み込んで聞くようにしていました。
- 脱税の具体的な方法
- 現金の隠し場所
- 売上を抜いた使途(何にいくら使っていたか)
- 関与している人の役割分担
- いつ頃から、どのくらいの規模で行われているか
これくらいまで突っ込んで聞いておけば、調査担当者は着手のタイミングや、現場での着眼点を、はっきり持って動けます。おそらく当時の担当者にとっては、活用しやすい部外情報になっていたのではないかと思います。
タレコミは、受け手の力量によって、その後の使い道がまったく変わる ―これは、国税の現場で30年仕事をして、今でも変わらない実感です。
「結果を教えてほしい」という方が、本当に多かった
これは、書きながら思い出したのですが、部外情報を受けた際には、必ず相手の方にお伝えする決まり文句があります。
これは守秘義務上、避けて通れない説明です。ところが、現場の感覚としては、「いや、それでも、結果を教えてほしい」とおっしゃる方が、本当に多かった。
タレコミという行為は、感情のエネルギーが大きく動く行為です。「あの人が、ちゃんと税務署に絞られたのか」「自分の情報は、ちゃんと役に立ったのか」 ―ここを確かめたい気持ちが、強く出る方がいらっしゃる、ということです。
このときの私の本音を、正直に申し上げますと、
「恨みは買いたくないものだなぁ」
ということに尽きます。人と人との感情が、税務署という制度の窓口にまで持ち込まれている ―タレコミの世界の、リアルな一面でした。
印象に残った、3つのタレコミ
ここからは、私自身が現場で出会った、特に印象に残っている部外情報のお話です。業種・地域・人物が特定されないよう、ぼかしてお伝えします。
①奥様からのタレコミ
ある日、入ってきた電話のタレコミは、社長の奥様からのものでした。誰と誰が関与しているか。現金はどこに隠しているか。驚くほど詳細な内容でした。
聞いていくと、背景には代表者の浮気問題がありました。ご本人の中では、許せない出来事への報復行動として、税務署への通報という形を選ばれたのです。皮肉な言い方になりますが、家庭内の事情こそ、もっとも内側の情報源になります。経営者が「家族には経理を見せていないから安心」と思っていても、奥様は社長の生活そのものを見ています。隠していたつもりの現金や取引が、生活の延長線上で全部見えていた、というのが現実でした。
②同業者からのタレコミ
別の事案では、同業者からの匿名のタレコミがありました。ある社長が、自分の脱税方法を、同業者の集まりで自慢げに吹聴して回っていたそうです。
これがタレコミにつながるのですから、世の中、本当に分からないものです。タレコミの内容は、「ごく近い人にしか分からないレベル」まで具体的でした。当然、こちらから「どうしてここまで詳しく?」と聞きたくなるくらいです。電話の最後に、その方は強く念を押されました。
「私が言ったと、絶対にばれないようにしてくれ!」
その念押しが、同業界の人間関係の濃さを、よく物語っていました。
③経理担当からのタレコミ
そしてもう一件、これは典型的なパターンですが、経理担当者からのタレコミです。その方からの情報は、こうでした。
実際に調査に入ったところ、まさにその通りでした。そして、現場で証拠を突きつけられた瞬間の、社長の言葉が忘れられません。
「なんで、わかった(バレた)んですか!」
その表情には、驚きが隠せていませんでした。ですが私たちからすれば、答えは明白です。一番近くで経理を見ていた人が、見ていたからです。
この三つの事例が、語っていること
奥様、同業者、経理担当 ―ここに登場した三人には、共通点があります。それは、「社長自身が、“この人には知られていないはずだ”と思っていた人」だということです。
経営者ご本人は、
- 「奥さんは経理を見ていないから知らないはず」
- 「同業者にちょっと話したくらいでは伝わらないはず」
- 「経理担当には、本当のことまでは見せていないはず」
そう思っておられる。ですが現場の感覚では、周りの人は、社長が思っているよりずっと、よく見ています。そして、何かのきっかけで関係が崩れたとき、その記憶が、部外情報という形で表に出てくるのです。
調査が実際に始まってからの動き方については、税務調査は“世間話”から始まっていますや、寝たきりの父親が、布団から飛び起きた日(無予告調査の一場面)、「リョウチョウ」とは?国税局 資料調査課と一般の税務調査の違いでも書いています。
タレコミは、防げるのか?
率直に申し上げます。タレコミそのものを、完全に防ぐことはできません。それは、外側の人の意思の問題だからです。
ただし、こう言うことはできます。
- 隠している事実がなければ、部外情報があっても怖くない
- 平時から整っていれば、調査が来ても淡々と説明できる
- 人間関係を丁寧に積み上げることが、結果的に最大の対策になる
そして、調査の現場では、「誰がタレコミしたのか」は、社長に告げられません。最終的に見られるのは、いつもと同じ「事実」と「数字」です。だからこそ、対策も特別なものではなく、事実と数字を整えておくことに尽きるのです。
困ったときは、仁王さん通り税務会計にお任せください
部外情報(タレコミ)は、
- 一番身近な人から届くことが多い
- 内容は想像以上に具体的である
- 人間関係のもつれが、何年も経って戻ってくることがある
- 完全には防げないが、整っていれば怖くない
という、経営の足元の問題でもあります。
私は調査する側として、「まさか、あの人が…」とつぶやかれた経営者を、本当にたくさん見てきました。そのほとんどは、人間関係のもつれの記憶が、ご本人の中にも残っていたケースです。
タレコミを恐れて生きる必要はありません。ですが、「いつ何が来ても、淡々と説明できる体制」を平時から作っておくことは、経営者にとって、何物にも代えがたい安心になります。
うちは大丈夫だろうか、関係の悪い人が外にいる、最近、税務署からの郵便物が気になる ―どんな段階でも、一度ご相談いただいて構いません。税務調査対応は顧問契約の有無にかかわらず承っており、お電話は096-288-3894(平日8:30〜17:30)、メールは24時間受け付けています。
困ったときは、ぜひ 仁王さん通り税務会計 にご相談ください。