2026.07.27 / 相続税

相続税の税務調査は何を見られる?名義預金・預貯金の調べられ方を元調査官が解説

相続税の税務調査で見られる預貯金と名義預金

相続税の申告を終えたあと、「うちにも税務署から連絡が来るのだろうか」と気になる方は少なくありません。相続税の調査は、法人の税務調査とは着眼点が大きく異なります。

この記事では、公表されている統計と国税庁が公開した調査事例をもとに、相続税の税務調査で実際に何が見られているのか、そして最も指摘が多い「名義預金」がどう判断されるのかを整理します。熊本のご家庭で事前に確認しておきたい点もあわせてまとめました。

相続税の調査は、どれくらいの割合で行われているのか

国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)によると、実績は次のとおりです。

実地調査 9,512件

うち申告漏れ等の非違は7,826件(82.3%)

1件あたりの規模

申告漏れ課税価格 3,093万円/追徴税額 867万円

注目したいのは非違割合が82.3%にのぼる点です。これは、税務署が資料情報などから「申告額が過少である」と想定した事案を選んで調査していることの表れで、連絡が来た時点で、ある程度の資料はすでに集められていると考えるのが実態に近いといえます。

なお、調査は自宅に来るものだけではありません。文書や電話、来署依頼による「簡易な接触」は令和6事務年度で21,969件と、公表を開始した平成28事務年度以降で最も多くなっています。

調査で最初に見られるのは、土地ではなく「預貯金の動き」

相続と聞くと土地の評価が争点になる印象がありますが、申告漏れとなった相続財産の内訳(令和6事務年度)は次の構成です。

  • その他:43.3%
  • 現金・預貯金等:29.1%
  • 有価証券:13.6%
  • 土地:12.3%
  • 家屋:1.7%

最も大きい「その他」は、生命保険金や家庭用財産などが含まれるとされる、性質の異なる財産の集合です。単一の財産としては現金・預貯金等が約3割を占め、土地(12.3%)や有価証券(13.6%)を上回っています

理由は単純で、土地は登記や評価の資料が残るため申告から漏れにくい一方、預貯金は動かしやすく、記録の意味づけが難しいからです。そのため調査では、被相続人の口座の入出金履歴が数年分さかのぼって確認されるのが一般的です。

名義預金とは?相続財産と判断される4つの材料

ご家族名義の預金であっても、実質的に被相続人の財産と判断されれば相続財産として申告が必要になります。これがいわゆる「名義預金」です。判断は名義だけで決まるものではなく、実務では次のような点を総合して検討されます。

主な判断材料

  1. そのお金の原資は誰のものか(誰が稼いだ・誰の口座から出たか)
  2. 通帳・印鑑・キャッシュカードを誰が管理していたか
  3. 名義人本人がその口座の存在を知っていたか、自由に使える状態だったか
  4. 贈与であれば、その事実を裏づけるものがあるか(贈与契約書、贈与税申告など)

よくあるのが「子ども名義の口座に毎年少しずつ入れていた」「妻名義だが原資は夫の給与だった」というケースです。ご家族に隠す意図がなくても、形式が整っていなければ指摘の対象になり得るという点が、この論点の難しさです。

国税庁が公表している調査事例

同じ資料には、実際の調査事例も掲載されています。いずれも重加算税の対象となった事案です。

事例1:現金の保管

相続開始前に引き出した多額の現金を相続人の自宅金庫で保管し、申告から除外していた事例

事例2:名義口座への移動

被相続人の口座残高が基礎控除以下になるよう、相続人やその家族名義の口座へ預金を移し、無申告としていた事例

令和6事務年度の重加算税の賦課件数は1,065件(非違件数の13.6%)。無申告事案への実地調査は650件で、1件あたりの追徴税額は2,187万円となっています。いずれも、口座間のお金の動きが端緒になっている点が共通しています。

熊本のご家庭で、生前に確認しておきたい5つのこと

熊本国税局が公表した令和6年分の申告事績では、県内で申告書の提出に係った被相続人は1,370人(前年比109.4%)、課税割合は5.6%で、いずれも基礎控除額の引下げがあった平成27年分以降で最多となりました。「資産家ではないから関係ない」とはいえない状況です。

熊本でご相談をお受けする中で、次のような点が後から問題になりやすいと感じます。

  • 実家や農地など、長く名義を変えていない不動産がある
  • 子が福岡や関東に出ており、通帳や書類の場所を把握しているのが地元に残った家族だけ
  • 高齢のご本人が複数の金融機関に少額ずつ口座を持っている
  • 親族間で書面を交わさずにお金のやり取りをしてきた経緯がある
  • 家族名義の口座に、本人が把握していない入金がある

相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10か月以内です。この期間で財産を洗い出すのは想像以上に負担が大きく、どの口座にいくらあるのかを生前に一覧化しておくだけでも、ご家族の負担は大きく変わります

調査の連絡が来たときの対応

実際に連絡を受けた場合、対応の分かれ目になるのは次の点です。

しておきたいこと

通帳・印鑑の管理状況を整理する/分からない点は「確認します」と伝える/税理士に立会いを依頼する

避けたいこと

慌てて資料を作り直す/通帳の記載について事実と異なる説明をする/記憶が曖昧な点を断定で答える

前述の公表事例のとおり、隠したと判断されれば重加算税という重い扱いになります。記憶にないことを無理に断定しないほうが、結果として穏やかに終わることが多いといえます。

税理士の立会いも可能です。調査する側にいた経験があると、調査官が何を確認したいのか、どの資料を出せば話が前に進むのかの見当がつきます。詳しくは税務調査の対応税務調査でお困りの方へをご覧ください。

よくあるご質問

申告してから何年後に調査が来ますか

時期は事案によって異なりますが、申告期限から1〜2年ほど経ってから連絡が入るケースがよく見られます。申告から時間が空いたからといって、調査がないと確定するわけではありません。

税理士に依頼して申告していれば調査は来ませんか

税理士が関与していても調査の対象にはなります。ただし、申告の根拠資料が整理されていれば、確認がスムーズに進みやすくなります。

指摘を受けたら、どのような負担が生じますか

不足していた本税に加え、加算税や延滞税がかかります。意図的に隠したと判断された場合は重加算税の対象となり、負担は大きく変わります。具体的な取扱いは重加算税はどんな場合に課されるかで解説しています。

まとめ

  • 相続税の実地調査は非違割合82.3%。連絡が来る時点で資料は集まっていると考えるのが実態に近い
  • 申告漏れは現金・預貯金等が約3割で、土地や有価証券より大きい
  • 名義預金は原資・管理・本人の認識・贈与の裏づけで総合的に判断される
  • 生前に口座の一覧化をしておくことが、最も現実的な備えになる

調査の入口の進み方は税務調査は「世間話」から始まっています、申告そのものの考え方は熊本の相続税申告のページでご説明しています。

※本記事の調査に関する数値は国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月公表)、熊本県の申告事績は熊本国税局「令和6年分 相続税の申告事績の概要(熊本県版)」(令和7年12月公表)によります。制度・取扱いは改正されることがあります。個別の事情によって判断は異なりますので、具体的な取扱いは税務署または税理士にご確認ください。

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