帳簿の数字は、書類の“見た目”から崩れることがあります
国税の現場で30年仕事をしてきた中で、調査の現場には、世間にはあまり知られていない「見抜き方」がいくつもあります。
今回はその中から、私自身が現場で何度も使ってきた、領収書の改ざんと印鑑にまつわるお話をご紹介します。
経営者の方には、ぜひ知っておいていただきたい話です。「ここまで見られているのか」と感じていただくことが、結果的に皆さまの会社を守ることにつながるからです。
領収書の改ざん ― こんな手口があります
まず、領収書の改ざんです。よくある手口を挙げると、次のようなものがあります。
「1」を「4」に書き換える。
「1」を「9」に書き換える。
「¥」マークの後ろに、数字を一桁足す。
数字の後ろに、「0」を一つ書き足す。
そもそも領収書を白紙でもらい、後から好きな金額を書き込む。
経営者の中には、「これくらいなら、誰にも気づかれないだろう」と思って、こうした行為に手を染めてしまわれる方がいます。
ですが、はっきりと申し上げます。数字の改ざんは結構バレやすいのです。
なぜ、改ざんはバレるのか
理由はシンプルで、改ざんを行うと、必ずどこかに物理的な違和感が残るからです。
筆圧の違い ― 書き足された数字だけ、押し付けが強い/弱い。
筆跡の違い ― 同じ人が書いたはずなのに、ペンの運びがどこか違う。
インクの違い ― 同じ黒に見えても、メーカーや製造時期によって色味が微妙に違う。
複写式の領収書のカーボンの色 ― 後から書き足した部分は、複写されていない、あるいは複写の色が違う。
紙の劣化具合との対比 ― 古い紙の上に、新しいインクだけが鮮やかに乗っている。
これらは、領収書の束をパラパラとめくっていく中で、自然に目に飛び込んでくる違和感です。
ある一枚だけインクの色が違う、ある一文字だけ筆圧が強い ― こうしたものを、ベテランの調査官は無意識のうちに拾い上げます。
そして、もう一つ、決定的な例があります。
「領収書の型番が、その領収日付には、まだ製造されていなかった」
これは、実際に現場で出会ったことのある例です。
領収書には、メーカーが製造した時期があります。
調査の際違和感があった領収書を確認してみると、その領収書に記載された日付以降に製造された領収書(まだその時期には世に出ていない型番)だったのです。
書いた人間は、紙そのものの来歴までは、なかなか意識しないものですが、その瞬間、必要経費の仮装行為が発覚してしまったのでした。
改ざんが見つかったときの、本当の怖さ
改ざんが見つかったときの怖さは、その領収書一枚の話だけでは終わりません。
数字を改ざんされた領収書は、仮装隠蔽行為の証拠物として扱われます。これは、重加算税(35%)の対象となる、最も重いペナルティの世界です。
さらに、もう一つあります。「こういう行為をする納税者だ」と判断された瞬間、税務職員の心証は一気に悪くなるということです。そうなれば、本来そこまで深く見ないところまで、さらに踏み込んで調査が進みます。他の論点も、より厳しく見られるようになるのです。
たった一枚の領収書の書き足しが、会社全体の調査の深さを変えてしまう。これが、改ざんの本当の怖さです。
印鑑から、足がつくことがあります
もう一つ、現場でよく使ってきた“見抜き方”があります。それが、印鑑です。
最近は、印鑑そのものを使う機会が減ってきましたが、私が現場にいた時代には、印鑑から足がつくことが多くありました。
調査の現場では、現場確認調査(または現況調査)と呼ばれるものを行うことがあります。これは、納税者の了承を得たうえで、事業に関連する場所を確認させていただき、証拠物を探す行為です(任意調査の中で行う、いわゆる“ガサがけ”のようなものですね)。
事務所の引き出し、金庫の中、机の上 ― こうした場所を確認していくと、実にいろいろな印鑑が出てくることがあります。
会社の実印、銀行印、認印、そして…「これは何の印鑑だろう?」と思うような、見覚えのないものが、ぽつんと混ざっていることがあるのです。
印鑑は、こうして“喋ります”
ここで、皆さまに少しクイズです。私たちが現場で印鑑を見つけたとき、まず何をすると思われますか?
答えは、「からうち」です。
「からうち」とは、印鑑をそのまま、朱肉を付けずに、印影紙(当時は専用の用紙があったんです)という紙に押し付ける行為です。
朱肉を付けずに押すので、最初は何も写りません。次に、朱肉を付けて、印影が見えなくなるまで、連続で押し続けます。
これで、何が分かるのか。「この印鑑が、どの程度、普段から使われているか」が、はっきりと見えてくるのです。
ですから、からうちで押した瞬間に、
印影がくっきり浮かび上がる印鑑 → 普段から頻繁に使われている。
ほとんど印影が出ない印鑑 → ほぼ使われていない。
といった具合に判断できるわけです。
ですから、印鑑は、自分が使われた歴史を、そのまま残しているのです。
そして、この印鑑は何に使われていたのか
「からうち」の結果を見て、頻繁に使われている印鑑を把握した場合、次のステップに進みます。「この印鑑が、何に使われていたのか」を、当時の取引や書類から逆算していくのです。
昔は、仮名預金・借名預金(架空の名義や他人の名義で開設した預金)に使われていた印鑑が出てきて、そこから多額の簿外資産が発覚するということもありました。
最近は、預金の世界では本人確認が厳しくなったため、こうしたケースは減りましたが、その代わりに、架空の領収書に押印されていた印鑑、架空の契約書に使われていた印鑑、取引先の名義を借りた書類に押されていた印鑑など、印鑑の使い道は形を変えて存在しています(何でもありと言っていいくらいですね)。
書類は、扱った人間の痕跡を残します
領収書の改ざんも、印鑑の使われ方も、共通しているのは一つです。書類は、扱った人間の痕跡を、想像以上にはっきりと残します。
数字を一文字書き換えれば、そこに筆圧と筆跡が残ります。印鑑を何かに押せば、彫り目に朱肉の痕跡が残ります。本人は「これくらい誰にも分からない」と思っていても、現場のベテランの調査官には、それが目に飛び込んでくるのです。
ですから、申し上げたいことは、ただ一つです。書類は、最初から、後ろめたさのない状態で残しておきましょう。これに尽きます。
困ったときは、仁王さん通り税務会計にお任せください
書類の世界には、数字の改ざんは、筆圧・筆跡・インク・カーボン・紙の来歴等から見抜かれます。
書類は、扱った人間の痕跡を、思った以上に残してしまう ― という、現場の人間しか知らない世界があるわけです。
私は調査する側として、こうした“書類の声”を、これまで何度も聞いてきました。そのほとんどは、悪意というよりも、「これくらいなら分からないだろう」という、ちょっとした油断から始まったケースばかりです。
経理が後手に回っている、領収書の整理が追いついていない、ちょっと書き直したものがある ― そんなときこそ、ご相談いただきたいのです。書類が整っていない段階のほうが、まだ打てる手はたくさん残っています。
改ざんと重加算税の関係は重加算税はどんな場合に課される?、書類の番号から崩れた例は完璧に隠したつもりが、“一連番号”で崩れました、税務調査への対応の全体像は税務調査対応のページにまとめています。初回40分のご相談は無料です。お電話(096-288-3894/受付:平日8:30〜17:30)またはフォームからお気軽にどうぞ。
困ったときは、ぜひ仁王さん通り税務会計にご相談ください。