経費の永遠のテーマ、それは「車」です
国税の現場で30年仕事をしてきた中で、業種を問わず本当に多くの経営者の方と議論してきたテーマがあります。
「その車、どこまで経費になるんですか?」
法人税にも、所得税にも、消費税にも関わってくる ― ある意味、経費の世界の永遠のテーマといっていいかもしれません。
事業に使えば、もちろん経費になります。ですが、高額な車両は経費にならないのか? 高ければダメなのか? 逆に、安ければ何でも通るのか? ― この境界線が、現場では本当によく議論になりました。
カローラは○で、メルセデスは×なのか?
よく経営者の方から聞かれる質問があります。
「ベンツは経費で落とせないと聞いたんですが、本当ですか?」「カローラなら大丈夫で、メルセデスはダメなんですか?」
結論から申し上げると、車種や価格だけで、経費になるかどうかが決まることはありません。本当に大事なのは、「その車が、事業のために使われている実態があるか」という一点です。
ここで、私が現場で出会った、印象的な経営者のお話を二つご紹介します。
①「私はこの病院の大黒柱なんです」 ― ボルボの院長
ある病院の税務調査での出来事です。その院長先生は、高級車のボルボに乗っておられました。社用車として、そのほぼ全額を経費に計上されていました。
経費性について確認させていただいた際、院長先生はこう答えられたのです。
「私は医師として、この病院の大黒柱です。私が交通事故にあって動けなくなれば、収入は入ってきません! だから、国産車ではなくボルボを使っているんです」
これは、なかなか説得力のあるご説明でした。安全性能の高い車に乗ることで、医師である自分自身を守る。それが結果的に、病院の経営を守ることにつながる。事業上の合理的な理由として、十分に成り立つ説明だったのです。
②「車は一台しか持っていません」 ― GT-Rの調律師
もう一件、印象的だったのが、あるピアノの調律師の方です。その方が乗っておられたのは、日産のGT-R。決して安い車ではありません。
その方は、こう説明されました。
「私は、車を一台しか持っていません。この車でピアノの調律に行くし、プライベートではほぼ車を使うことがありません! だから、ほぼ全額を経費に計上しているんです」
これも、興味深い説明でした。「事業用とプライベート用を分けて持っているか」という、車の使い方の実態に踏み込んだご主張です。
結局、判断のカギは「事業割合」
ボルボの院長先生も、GT-Rの調律師の方も、経費性そのものは認められたケースです。ただし、ここから先が本番です。
経費性が認められた車であっても、100%事業に使っているとは限らない。そこで、事業割合に応じて按分することになります。そして、現場では、この事業割合の計算で、また揉めるのです。
「ほぼ仕事で使ってます」は、通用しません
経営者の方の中には、こう思っておられる方が、今でもいらっしゃいます。
「税務署には、ほぼ仕事で使っていることにしておけば、バレないだろう」「9割は事業用と言っておけば、それで通るだろう」
ハッキリ申し上げます。この感覚は、通用しません。
私が調査担当者だった頃は、きちんと走行距離を割り出して、事業割合を計算していました。方法は、決して特別なものではありません。
たとえば、「通勤でしか使わない」とおっしゃるのであれば、自宅と職場の往復距離 × 営業日数 = 事業使用距離。「出張で使う」ということであれば、上記に、出張先までの距離を加算。それと、メーターの総走行距離を突き合わせる。これだけで、事業割合の実態が、ほぼ見えてきます。そして、ご本人が申告されている事業割合と、計算で出てきた事業割合が大きく食い違っていれば、当然、修正を求めることになります。
事業割合が変わると、何が変わるか
「事業割合が少し変わるだけでしょう?」と思われるかもしれません。ところが、ここが盲点です。
事業割合が変わると、減価償却費の金額が変わるのはもちろんのこと、車両関係費(ガソリン代・駐車場代・修繕費・車検費用)、自動車保険料、自動車税・自動車重量税などの租税公課、これらすべての金額が、連動して変わってきます。つまり、車一台の事業割合をめぐる議論は、車に関わるありとあらゆる経費に波及するということです。
一見、わずかな差に見える事業割合の数%の違いが、何年分も積み重なれば、まとまった追徴税額につながる ― これが、現場のリアルです。
「重箱の隅」と言われようとも
こうした調査のやり方を、「重箱の隅をつつくような調査だ」と感じられる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。そのお気持ちも、分からなくはありません。
ですが、これも立派な税務調査の一部です。事業に使ったものだけが経費になる ― この原則を、一つひとつの数字に対して確認していくのが、調査官の仕事だからです。
経費にする以上、根拠を持っておくこと
経営者として、「何でも経費に入れて、税金を少なくしたい」と思うのは、ある意味、正直な気持ちかもしれません。私自身、現場でその気持ちは何度も感じてきました。
ですが、現場の経験から、はっきり申し上げます。経費にする以上、その根拠を、事実に基づいて整えておくこと。そして、調査担当者にきちんと説明できる状態にしておくこと。これが、後の調査で否認されないための、唯一の方法です。
車をどう使っているか、走行記録を残しておく。出張・営業の目的地と日付を、スケジュールやメモで残しておく。事業割合を計算した根拠資料を、保管しておく。高額車両であれば、事業上の合理的な理由を、自分の言葉で説明できるようにしておく。これだけで、調査の場での景色は、まったく変わります。そして、税理士と一緒に整えておけば、より強い体制になります。
困ったときは、仁王さん通り税務会計にお任せください
車と経費の問題は、車種や価格だけでは決まらない。事業上の合理性があれば、高額車両でも経費性は認められうる。ただし、事業割合は、走行距離をベースに実態で見られる。事業割合が変われば、車両関係費・保険料・租税公課まで連動する。「ほぼ仕事で使っている」は、根拠なしでは通用しない ― という、現場の知恵が問われる論点です。
私は調査する側として、車をめぐる議論を本当にたくさん見てきました。そのほとんどは、悪意があったわけではなく、「経費にしてよいと思っていた」「ここまで細かく見られるとは思わなかった」ケースです。
社用車として高めの車を入れたい、自家用車を事業にも使っている、事業割合の出し方が分からない ― 「うちの車、本当にこの処理で大丈夫かな?」と少しでも引っかかったら、その時点でご相談ください。
車の按分の考え方は家事按分の基準と税務署の判断ライン、同じ「境界線」の話は「修繕費で落とせる」は本当ですか?、税務調査への対応の全体像は税務調査対応のページにまとめています。初回40分のご相談は無料です。お電話(096-288-3894/受付:平日8:30〜17:30)またはフォームからお気軽にどうぞ。
困ったときは、ぜひ仁王さん通り税務会計にご相談ください。