ご家族が亡くなられたあと、葬儀や役所の手続きが一段落したころに、「相続税の申告は必要なのだろうか」「いつまでに何をすればよいのか」と気になり始める方が多いようです。熊本でも、初めての相続で何から手をつければよいか分からないというご相談をよくいただきます(役所での手続きについては熊本市の「ご遺族サポートサービス」もご参考になります)。
相続の手続きには動かせない期限があり、順番を間違えると選べたはずの選択肢がなくなることもあります。この記事では、国税で長年調査に携わってきた立場から、相続が発生してからの期限と、先に動いておきたい手続きの順番を整理してお伝えします。
まず押さえる3つの期限
相続が起きたあとに関わってくる主な期限は、次の3つです。いずれも「亡くなった日」ではなく「相続の開始があったことを知った日」を起点に数えます。
▶ 3か月 相続放棄・限定承認
民法第915条第1項は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかを選ばなければならないと定めています。同項のただし書により、この期間は家庭裁判所に申し立てて伸ばせる場合があります。
▶ 4か月 準確定申告
故人様に事業所得や不動産所得などがあった場合、その年の1月1日から亡くなった日までの所得税を申告します。所得税法第125条第1項は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに申告書を提出しなければならないとしています。
▶ 10か月 相続税の申告と納付
相続税法第27条第1項は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならないと定めています。納付の期限も同じ日です。
実務でとくに窮屈なのが、3か月の期限です。財産と借金の全体像が見えないまま判断を迫られることになるため、通帳や郵便物の確認は早めに始めておくことをおすすめします。
相続税の申告が要るかどうかの見分け方
相続税は、亡くなった方の財産が一定の金額を超えた場合に課税されます。この一定の金額が「遺産に係る基礎控除額」です。
相続税法第15条第1項は、基礎控除額を3,000万円と、600万円に相続人の数を乗じた金額との合計額と定めています。相続人が3人であれば、3,000万円+600万円×3人=4,800万円という計算です。
ここで間違えやすいのが「相続人の数」の数え方です。同条第2項では、相続放棄があった場合でもその放棄がなかったものとした場合の相続人の数で計算するとされています。また、養子を相続人の数に算入できるのは、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。
財産の合計が基礎控除額の範囲に収まっていれば、相続税の申告は原則として必要ありません。一方で、特例を使った結果として税額がゼロになる場合は、申告そのものは必要になる点にご注意ください。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、申告して初めて適用を受けられる仕組みだからです。「税金がかからないから申告しなくてよい」と早合点すると、あとで特例が使えなくなることがあります。
熊本で最初に集めておく書類
財産の全体像をつかむには、まず資料集めから始まります。熊本で相続が起きた場合、次のあたりが出発点になります。
▶ 戸籍関係
相続人を確定するため、故人様の出生から死亡までの連続した戸籍が必要です。本籍を移されている場合は、その分だけ取り寄せ先が増えます。時間がかかる作業なので、真っ先に着手されることをおすすめします。
▶ 不動産の資料
毎年春に届く固定資産税の課税明細書が手がかりになります。漏れなく把握したい場合は市町村で名寄帳を取得すると、その市町村内の物件が一覧で確認できます。登記の内容は登記事項証明書で確かめます。熊本県内の不動産であれば、熊本地方法務局とその支局・出張所が窓口です。
▶ 預貯金・有価証券
金融機関ごとに、亡くなった日現在の残高証明書を取得します。過去の入出金の履歴もあわせて確認しておくと、あとで慌てずに済みます。
国税で相続税の調査に携わってきた経験から申し上げると、調査で問題になりやすいのは、名義は家族でも実質は故人様のものだった預金です。詳しくは相続税の税務調査は何を見られる?で解説しています。
土地の評価はどう決まるのか
相続財産のなかで、金額が大きく、かつ評価が難しいのが土地です。
土地の評価方法は、大きく分けて路線価方式と倍率方式の2つです。路線価は国税庁が毎年公表しており、熊本市の市街地のように路線価が定められている地域では路線価方式、路線価のない地域では固定資産税評価額に一定の倍率を掛ける倍率方式で計算します。
ただし、実際の評価は路線価を掛けて終わりではありません。間口が狭い、奥行きが長い、不整形である、道路より高低差がある——こうした条件によって補正が入ります。熊本は高低差のある土地や、区画の整っていない旧市街地の土地も多く、評価額が動きやすい地域です。
また、居住用や事業用の宅地について評価額を下げられる小規模宅地等の特例もありますが、適用の要件は細かく定められています。使えるかどうかで税額が大きく変わる部分ですので、自己判断せず個別に確認されることをおすすめします。
相続登記にも3年の期限があります
税金とは別に、不動産の名義変更(相続登記)にも期限が設けられました。法務局の案内によると、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されています。
不動産登記法第76条の2第1項は、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならないと定めています。遺産分割が成立した場合についても、法務局は分割が成立した日から3年以内に登記をする必要があると案内しています。
令和6年4月1日より前に相続が開始していた場合も義務化の対象で、3年の猶予期間が設けられています。正当な理由なく申請を怠ったときは、同法第164条第1項により10万円以下の過料の対象となります。なお、登記の申請は司法書士が扱う手続きですので、税務のご相談とは分けてお考えください。
遺産分割がまとまらないまま10か月が来たら
ご相談で多いのが、話し合いが長引いて申告期限が近づいてきた、というケースです。
この場合でも、期限までに申告と納付は行うことになります。分割が決まっていないときは、法定相続分で分けたものと仮定して申告し、あとで実際の分割内容に合わせて修正するという流れをとります。
気をつけたいのは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則として分割が決まっていないと適用できないことです。いったん特例なしで納税することになります。
あとから取り戻す道はありますが、こちらにも期限があります。相続税法第19条の2第2項のただし書は、分割されていない財産が申告期限から3年以内に分割された場合を対象としています。そして同法第32条第1項は、更正の請求ができるのは事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内と定めています。加えて、当初の申告書に所定の書類を添えておくことが前提になります。放っておいて自動的に戻ってくるものではない、とお考えください。
手続きの手間も資金の負担も増えますので、10か月という期限は「話し合いの目標」として意識しておいていただきたいところです。
熊本で相続のご相談は
相続は、期限・評価・分割の3つが絡み合うため、順番を決めて進めるほうが遠回りが少なくなります。とくに土地の評価と特例の適用は、判断ひとつで税額が変わる部分です。
仁王さん通り税務会計は熊本市中央区坪井の税理士事務所で、代表の平野和博は国税に30年在職し、累計500件を超える調査に携わってきました。相続財産研究所という部門を設けて相続税申告に取り組んでおり、税務署がどこを見るかを踏まえたうえで、申告までの段取りをご一緒に整理します。相続税がかかるかどうかの見当をつけたい段階でも構いません。
相続税申告の進め方は相続税申告のページにまとめています。初回40分のご相談は無料です。お電話(096-288-3894/受付:平日8:30〜17:30)またはフォームからお気軽にどうぞ。